大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(行ケ)208号 判決 2000年9月26日

原告

三菱電機株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

近藤惠嗣

同弁理士

【B】

【C】

被告

特許庁長官【D】

指定代理人

【E】

【F】

【G】

【H】

主文

特許庁が平成10年審判第19446号事件について平成12年4月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成3年1月18日に発明の名称を「増幅器」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願平3-4422号)をしたところ、平成10年11月10日に拒絶査定を受けたので、同年12月17日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成10年審判第19446号事件として審理した結果、平成12年4月26日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同年5月22日原告に送達した。

2  拒絶査定と補正の経緯

(1)  拒絶査定時の特許請求の範囲

ア 請求項1(以下「拒絶査定時の請求項1」という。)

少なくとも、FET、トランジスタ等の能動回路素子を有する第1の基板と、キャパシタ、インダクタ、抵抗等の受動回路素子のみを有する第2の基板と、第1の基板と第2の基板の所定の回路及び素子を接続する接続手段とを有することにより、基板製作の歩留りを向上させることを特徴とする増幅器。

イ 請求項2(以下「拒絶査定時の請求項2」という。)

少なくとも、FET、トランジスタ等の能動回路素子を有する第1の基板と、キャパシタ、インダクタ、抵抗等の受動回路素子のみを有する第2の基板と、出力回路を有する第3の基板と、第1の基板と第2の基板と第3の基板の所定の回路及び素子を接続する接続手段とを有することにより、基板製作の歩留りを向上させることを特徴とする増幅器。

(2)  拒絶査定の理由の要旨

ア 拒絶査定時の請求項1に係る発明は、特開昭58-162111号公報(以下「引用例」という。)記載の発明から容易に想到し得たものと認められる。

イ 拒絶査定時の請求項1、2に係る発明はそれぞれ、特開平4-227101号公報記載の発明と同一である。

(3)  審判請求時の補正

原告は、平成11年1月12日付けで手続補正書を提出し、拒絶査定時の請求項1を削除し、拒絶査定時の請求項2について、基板の材料に関する要件を付け加えることによって、これを2つの独立した請求項とする補正をした。この補正後のものが本願発明の特許請求の範囲である。

3  本願発明の特許請求の範囲

(1)  請求項1

少なくとも、FET、トランジスタ等の能動回路素子を有する第1の半導体基板と、キャパシタ、インダクタ、抵抗等の受動回路素子のみを有する第2の半導体基板と、出力回路を有する第1の誘電体基板と、第1の半導体基板と第2の半導体基板と第1の誘電体基板の所定の回路及び素子を接続する接続手段とを有することにより、基板製作の歩留りを向上させることを特徴とする増幅器。

(2)  請求項2(以下「本願請求項2」という。)

少なくとも、FET、トランジスタ等の能動回路素子を有する第1の半導体基板と、キャパシタ、インダクタ、抵抗等の受動回路素子のみを有する第1の誘電体基板と、出力回路を有する第2の誘電体基板と、第1の半導体基板と第1の誘電体基板と第2の誘電体基板の所定の回路及び素子を接続する接続手段とを有することにより、基板製作の歩留りを向上させることを特徴とする増幅器。

4  審決の理由の要点

本願請求項2に係る発明が、引用例記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明は特許を受けることができない、と認定判断した。

5  審決取消事由の要点

拒絶査定の理由では、引用例は、拒絶査定時の請求項1に係る発明について引用されたのみであって、拒絶査定時の請求項2に係る発明については引用されていない。ところが、審決時までに拒絶査定時の請求項1は削除されており、本願請求項2は、拒絶査定時の請求項2を二つに分割したうちの一つである。したがって、引用例記載の発明等に基づいて当業者が容易に発明できたという理由で審決をしようとするときは、審判において拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に当たるから、原告に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項、50条)。ところが、審決は、これをしないままになされた。したがって、審決にはとるべき上記手続をとらなかった誤りがあり、この誤りがその結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法として取り消されるべきである。

第3当裁判所の判断

原告の主張のうち、1(特許庁における手続の経緯)及び3(本願発明の特許請求の範囲)の事実は当事者間に争いがなく、その余の事実は被告が口頭弁論において争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。

以上の事実によれば、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例